高桐先生はビターが嫌い。

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ある日の夕方。

日向が、放課後は用事があるって言うから。

今日は仕方なく、独りで帰ることにする。

生徒玄関には、これから部活にいく生徒達がたくさんいて。

グランドまで無邪気に走って行く野球部員の一年生。

ラケットを片手に生徒玄関で戯れるテニス部員。

部活の前に自販機でジュースを買う…バスケ部員。

楽しそうに花束を抱えて廊下を歩く…華道部員。


いいな…なんかみんな楽しそう。

あたしも部活、やればよかったかな…。

でもあたしも、日向と同じ。両親が幼い頃からいないから。

あんまり好きなことは、出来ない。

まぁ日向には、お父さんは、いるけどね。


そう思いながら、とぼとぼと歩いて。

夏がはじまろうとしている空の下。

校門を、抜けようとしていると…



「っ…市川さん!」

「?」



ふいに、聞き覚えのある声に名前を呼ばれて、そこを振り向けば。

そこには、日向の…コウマ君がいて。

あ、もしかしてまた日向のこと待ってるのか。

そう思いながら、



「日向なら今日は…」



そう言って、用事があることを伝えようとしたら…



「や、今日は…市川さんに、用事があって」

「?」

「あの………一緒に帰りたい…です」

「え、」



コウマ君はいきなりそう言って、少し…顔を赤くした。

新しい本物の恋が、始まろうとしている瞬間だった…。