高桐先生はビターが嫌い。

「!」



ふいに後ろから呼ばれた、さっきと同じ声。

その声に反応して振り向くと、そこには走ってここまで来たらしい高桐先生が、居て。



「…高桐先生…」



…先に帰ったんじゃ…。

そう思って名前を呟くと、高桐先生が言った。



「っ…どうしたの、」

「…」

「急に、何か…ただならぬ雰囲気で走るからさ、心配になるじゃん」

「!」

「どうかした?」



そう言いながら、少し息をきらして、でもその言葉通り心配そうな顔をする高桐先生。

一方、そう言われたあたしは…ポケットの中の、原因であるスマホを握りしめて。

…これは、高桐先生に見せるわけにはいかない。

そう思うから、咄嗟に嘘を吐いた。



「…お、落とし物、した気がして」

「!」

「ここに、落としたんじゃないかって。でも、気のせいだったみたいです」

「…落とし物って、何を…」

「……あ、鞄の中にありました。リップクリーム」



そう言って、全く関係のない色付きのリップクリームを、わざわざポーチの中から取り出す。

…そんなあたしの言動に、すっかり騙されてくれた高桐先生が、それを見て「ドジだね」なんて笑うから。

高桐先生が、騙されやすい人で良かった。

…後藤先生とかなら、すぐに見破られそうだから。

そう思って、あたしはすぐに話を変えるように言った。



「先生、帰りましょ」

「…そだね。暗いからね」

「…」

「でも本当にびっくりしたよー」

「…」



…そんな高桐先生の前を歩きながら、あたしのポケットの中でまた震えるスマホ。

こっそり取り出して、画面を見ると。

そこには、さっき画像を送ってきた人からのメッセージが、表示されていた。



“陽太から離れろ”