高桐先生はビターが嫌い。

…出会って、その日にキスなんて…

いや、あたしだってしたことはあるよ。

あるけどさぁ…。

誰かに見られたら、どうすんのって話で。

あたしがいきなりのキスに固まっていると、コウマ君は「じゃあね」と手を振ってその場を後にして行く。

人混みの中だから、その背中はすぐに見えなくなったけど。



「…さいあく」



…高桐先生とも、まだ…キスしてないのに。

したことないのに。

あたしはそう思うと、大きなため息を吐いて。

罪悪感の中。

カラオケ店の前を、後にした。


…………



それからは、なんとなく真っ直ぐに帰る気になれなくて…

ショッピングをしたり、寄り道をしてからマンションに向かった。

…今日は合コンっていう予定があったから、高桐先生との夕飯の約束は断っていたし。

まさかこんなに早く終わることになるとは…いや、良かったけどね。

でも、厄介な人が現れちゃったな…。

しかも何か……だし。やっぱ帰りたく…ないな。

そう思いながら、とぼとぼと…歩いていると。



「っ、日向さん!」

「!」



気が付けば、もうすっかり暗くなっていたマンションの前。

ふいに突然、大好きな声に名前を呼ばれたと思ったら。

振り向いたその先…マンションの前に、高桐先生が立っていた。



「先生っ…!」



…実はあんなことしちゃったし。

なんとなく、会いたくないな…そう思っていても。

いざ高桐先生の顔を見ると、嬉しくて。

笑顔で、そう呼んで。駆け寄ってしまう。

待っててくれたのかな。

そう思いながら、高桐先生の傍まで来ると…



「おかえり」

「!」



普段は、そんなこと…ほとんどしないのに。

外で、高桐先生に優しく抱きしめられた。