高桐先生はビターが嫌い。


「連絡先、交換完了」

「えっ」

「これから毎日連絡するから」



そう言って、あたしにスマホを返して、先に階段を下りて行く。



「…え、本当に戻らないの?」



そんなコウマ君にあたしがそう聞くと、コウマ君が言った。



「…俺、カラオケ嫌いだから。それに…」

「…?」

「………ま、会いたい女のコには会えたしな」



何故か、少しだけ何かを考えるようにして黙り込んだあと、パッと表情を変えて笑って見せるコウマ君。

あたしは…どうしようかな。せっかくだからあたしも帰ろうかな。

そう思っていると…



「これから2人でどこか行く?」



コウマ君がふいにそう聞いてきたから、あたしは首を横に振って言った。



「…いや、帰る」

「冷たいねー。でもそこが可愛いよー」

「なんか言い慣れてるね」

「まさか、そう聞こえるだけさー」



そう言ってまた、ニッコリ笑うと。

ようやく店内のロビーに到着して。

2人で店を出る。

…一時間も居なかったな。

あたしがそう思っていると…



「…じゃあね、奈央ちゃん。今夜連絡するから」

「や、別に無理してしなくても…」

「…」



…コウマ君は意外とこれ以上の無理強いはしないらしく、本当にその場で手を振ってくれる。

でも、「送ろうか?」と提案されて…だけどあたしはそれを断った。

必死で、断った。

…しかし…



「そか。じゃあ、」

「?」



バイバイ。と、手を振るのかと思っていたら。

そんな声とともに、近づいてきたコウマ君の顔。

まさか…この場でされるなんて思ってもいなかったから。



「…!?」

「これくらいは、平気でしょ?」



人混みのなか。コウマ君は、別れ際に…

あたしに、キスをした。