高桐先生はビターが嫌い。

「!」

「そんなに長くはないけど…大学の時に、ちょっとだけ」

「…、」



唯香さんのその言葉を聞くと、あたしは思わずショックを受けてしまって…それを隠すこともできずにその場でうつ向く。

だけど、そんなあたしの様子に気が付いた唯香さんが、慌てたように言った。



「あ…でも、大丈夫。奈央ちゃんは何も心配することはないのよ」

「…けど、」



…そんなこと、高桐先生から一言も聞いてない。

っていうか、今まで高桐先生が唯香さんに会いに行ってたのって…もしかしたらそういう…。



「あたしにはもう今は篠樹くんがいるから。奈央ちゃんは奈央ちゃんで、あたしのことなんか気にしないでガンバッテ」

「…ハイ」



ありがとうございます。

あたしはそんな唯香さんの優しい言葉に、沈んだ声のままお礼を言う。

…唯香さんは本当に良い人。

高桐先生が惚れる理由もなんとなくわかる気がする。


…え、じゃあちょっと待って。

もしかして、高桐先生が今、あたしとほぼ毎日夕飯を食べてる本当の理由って…


あたしは不意にいらん事に気が付くと、何だか急にやる気が無くなって、また独りになった外で膝を抱えてうつ向く。

…あたしに勝ち目なんて…最初から無いじゃん。

あんなに可愛くて優しくて料理も上手な人…高桐先生がそう簡単に忘れられるわけない。


そう思いながら、勝手にこみ上げて溢れてくる涙に…やっぱりあたしは高桐先生のことが好きなんだ、と改めて思う。

…あたしのこと、心配してくれるの…教師としてだけじゃないって言ってくれて…あれ、嬉しかったのに…。

まぁ確かに、あたしが言わせた感も…あるんだけど。

そう思って、指で涙を拭った直後の視線の先。

突如、そこに見覚えのあるものが目に入って、あたしにはそれが学生証だと気づくまで…そう時間はかからなかった。


…見つかって、良かった。

すごく良かった、けど…。


なんかもう今日は会いたくないな。



「…帰ろ」



相変わらずの綺麗な星空の下。

その暗闇で、そんなあたしの声だけが妙に響いた。