高桐先生はビターが嫌い。


「え…嘘でしょ!?」


何のためらいもなく一瞬にして落ちて行くそれに気が付いた途端、慌てて手で掴もうとしたけど…時、既に遅し。

通路の手すりから下を覗けば、学生証は暗闇の中に消えていってしまった。

…うわ、やってしまった…。

この下は草むらがいっぱいの綺麗な庭だったはず。

行きたくないけど…大事なものだし、行くしかないか…。

だけど、誕生日プレゼントや欲しくて買ったもの等は一緒に持っていくわけにはいかないから、一旦部屋の中に置いて、あたしは急いで通路を駆け抜けた。

…暗闇だしどこに落ちたのかよくわからなかったけど…すぐに見つかるといいな。

っていうかなんでスマホの手帳に学生証なんかが挟まってんの…あたし。

そう思いながら、最上階で止まったままのエレベーターに乗り込んで、すぐに一階のボタンを押す。

心の中で、「早く早く…」と急かしながら、ゆっくりと下りて行く数字を見つめたまま…やがてそれは一階に到着、して。

急いで外に出て、さっき消えていった庭の方まで足を運んでみる。

だけどこんな薄暗い場所じゃあすぐには見つからなくて…。

スマホで周りを照らして、自分の足元やその周り…色んな場所をゆっくりと照らしていく。

でも何故か…なかなか見つからない。

変だな…この辺に落ちていったと思うんだけどな…。

そう思いながら、しばらく探していると…



「あれ、奈央ちゃん?」

「!?」



その時。少し離れた場所から、そんな聞き覚えのある女の人の声が…して。

ゆっくりとその声がした方を振り向くと、そこには何故か唯香さんが、いた。



「…え、ゆ、唯香さん?…なんで…」



…今頃は確か、仕事のはずじゃあ…。

だってそれで今日は後藤先生に会えなくなったって…。

しかしあたしがそう思ってビックリしていると、唯香さんがあたしの方に歩み寄って来ながら言った。



「あたしは今からサプライズで篠樹くんに会いにいくところ、」

「サプライズ…?」

「そ。一旦“会えなくなった”って言った直後に会いに行ったら嬉しくない?」