後藤先生はそう言うと、話を変えるようにして「送って行こうか?」と彼女さんに言う。

今から帰るんだろ?と。

でも、彼女さんは首を横に振ると、言った。



「帰ろうと思ってたけど、もうちょっといさせて。なんかこの子…奈央ちゃん?だっけ。興味あるし」

「!」

「ね、奈央ちゃん。学校での篠樹くんとか、陽ちゃんのこといろいろ教えてよ」



そう言うと、ニコリと笑いかけてくる。

…陽ちゃん。

だけどあたしは、ふいに耳に飛び込んできたその呼び名が、つい心の中で引っ掛かってしまう。

…思っていたよりも仲が良いのかな。

そう思っていたら…



「ダメだよ、これ以上は。もう消灯だから。…22時過ぎてるし」



ふいに高桐先生が、そう言って割り込んできた。

でも、そんな高桐先生の言葉に、彼女さんが「ケチ」と口を膨らませる。



「…ちょっとだけだもん」

「ちょっともだめ」

「この時間まで生徒をつれ回してた先生がそれを言うの?」

「その代わり、こうやって家までちゃんと送り届けてるじゃん」



そう言うと、「行くよ」とあたしを連れてその場を後にしようとする高桐先生。

その姿を少し残念そうに見つめる彼女さんだったけど、彼女さんはやがて諦めて後藤先生と一緒にエレベーターに乗り込む。

でもその前に、ふいに口を開いて言った。



「…変わらないね、陽ちゃんは」

「?」

「そうやってちゃんとしてるところが、全然変わんない」



そう言うと、高桐先生に向かって意味深に微笑んで、やがてエレベーターに乗り込んだ…。