高桐先生はビターが嫌い。


「…や、ほんと、マジで何でもないから」


「…?」


やっとその時、微かにそんな市川の声が聞こえてきた。

でも、その言葉だけじゃもちろん何の話をしているのか読めないから…。

また耳を澄ませてみる。

するとまた、2人の会話が聞こえてきた。



「ええ、気になるよ。あたしが何かしたなら謝るから」

「違う違う、そんなんじゃなくて」

「じゃ何?市川、今日変だよ」



あたしが耳を澄ませてその会話を聞いていると、日向が不満そうにそう言って市川を見る。

…なんか、会話を聞いている限り…もしかして、市川が日向に何かを隠してる…?

この様子だとそれはきっと、あたし達さえも知らない内容だと思う。

あたしがそう思っていると…



「…じゃあ…誰にも言わないって、約束してくれる?」

「うん?あ…う、うん。約束する」

「ほんと?」

「うん、ほんと」



不意にピタリと歩く足を止めた2人が、そう言って話を続ける。

きっと2人は今、あたしに後をこうやってつけられているなんて予想もしていないだろう。

そう思いながら、聞いていると…

次の瞬間、市川は思わぬ言葉を口にした。



「……あたしね、高桐…先生のことが、好きなの」

「…え」

「好きに、なっちゃったの。惚れたの」



「!?」



…えっ!?