「…んっ?」

「!?…っ」



突如。

目の前の若い男が、あたしの顔を見るなり目を細めて、顔をしかめた。

…見たことがある顔。

とでも思っているんだろうか。


あたしがその男…

“高桐先生”の視線から目を逸らすと、

先生は呟くように言った。



「…なんか」

「…」

「すごく見覚えのある顔、だね」

「!」



そう言って、先生は。

教室のど真ん中。

容赦なくあたしの顔を覗き込む。



「んー??」

「……、」



高桐陽太先生。

彼はこの春からこの学校に新米教師としてやってきた先生で、

なんとこのクラスの副担任になってしまったらしい。


しかも先生は、クラスメイト全員が見ているというのに、

次の瞬間あたしに言った。



「…きみ、“アイリちゃん”だよね?」

「…っ」

「この前、合コンに来てた!」

「っ!!」



…終わった。


そう言われた瞬間、あたしはそう思った。

だってその“アイリ”という名前はあたしの偽名で、

この場では決して言っちゃいけない名前…なのだから。


しかも、先生は。

そんなあたしに構わずに、言葉を続ける。



「…あれ。でもあの時…きみ、自分のこと20歳って言ってなかった?」



そう言って、本当に不思議そうに首を傾げる高桐先生。


…最悪。今すぐ消えたい。


あたしは心からそう思いながら、

何も口には出来ずに、思わずスカートの裾をぎゅっと握る。


彼…高桐先生とは、本当だったらこの学校で出会うはずだった。

だけど。

あたしはこの先生と、その前に全く別の場所で何度か出会っていたりする。



…早くあたしから離れてよ。

あたしのことはどうだっていいでしょ。



あたしはそう思いながら、今尚不思議そうにする高桐先生に、今度は顔を背けた。