神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?


無意識に上げた視線の先に梨佳の姿を見つけると、大河は一瞬だけ息を止めて、

そして自嘲気味に笑う。

あれだけ思いっきり振られたのに、目に馴染んだ光景は、あっさりと諦めきれない感情を揺り起こす。

その、梨佳に向けられる大河の変わらぬ眼差しに、安心したのは由紀のほうだった。

大河が近づくのを待たずに由紀が駆けよる。

梨佳に気を取られていた大河は、由紀が目の前に現れて、ようやくその存在に気付いた。


「……ああ、何か用?」

「はぁあああっ?こっちが聞きたいんですよ!先輩っ!なんでこんなことになってるんですかねえ!!」


相変わらずの梨佳以外への無関心ぶりに呆れつつ、“ならばなぜ”だと、噛みつく。



そんな由紀の真っ直ぐな姿を、梨佳は坂の上から眺めていた。

2人の前から逃げ出した時のような、衝動はない。

例えるならば無欲というか、自分自身に何の見返りを期待しないからこその、心の平穏とでもいうべきか。


「…そっか、もう残ってないんだった」


全部、全部、梨佳の“スキ”は大河のところに置いてきた…


――本当に、いいの?

凪紗が問う。

「うん。いいよ」


そう納得したところで、静寂な心の水面に波紋が広がった。

心臓の記憶は、取りつかれたように梨佳の行動を支配する。


昨日みた鉄塔の先に、もしかしたら今度こそ、先生がいるかもしれない。

先生に会えるかもしれない…


今、梨佳の姿をした凪紗は、現実を曖昧に重ねながら、浅い夢の中を走り出す。

そして、淡い期待を裏切られるほどに、心臓はその鼓動の意味を失っていくのだ。