「ただ、してみただけ。
アンタ、何も考えてなさそうだったから。」

私の顔を覗き込むようして、そう言った。


「もう、いいです!では、さようなら!」


夜の住宅街に、私の足音が響く―――


私は、梅田さんの部屋の前から、走って逃げだしていて。

目にうっすらと涙が溜まり、

乾いた唇を手の甲で拭う。


―――なんであんな奴と
初めてのキス………


いや、あんなのキスじゃない。キスじゃないんだから。

こんな暗示を何度も繰り返しながら、バイクを飛ばし店に戻った。



この日のバイトは散々だった。

全然、集中出来なくて。

田宮さんが「頑張れっ」
って声をかけてくれた事が…嬉しかったんだ。

だけど、どうしても頭から離れない。梅田さんの事が

彼は、…どんな気持ちで
私を見ているのかな?

きっと、
嫌われているんだろうな。