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暗い所を歩いていた。いや、歩くと言うより滑っていた。
もう随分とこうしているが、一向に何も見えてこない。自分がどこへいくつもりなのかも分からず、誰か見えはしないかとさ迷い続けていた。探している人が誰なのかも知らなかった。
そもそも、どうして自分はここにいるのだろう。立ち止まって考えていると、不意に気配を感じて周囲に目を凝らした。
人影が2つ現れた。1つは細長く、もう1つは小さめでがっしりしている。
「……やあっと見つけた!!こんなとこにいたんスか!!」
「探しましたよ、山猫船長!」
山猫船長――誰のことだろう。記憶に靄が掛かっているのか思い出せない。
「皆もうあっちで待ってるッスよ!ほらほら、早く!」
この2人には見覚えがあるような気がする。まじまじと見つめた途端、全てを思い出した。それと同時に訝った。
「何故貴方がここにいるのですか、ハルタ」
「え、それは……に、逃げる途中で殺されちゃいました」
目を逸らして答えたが、ハルタは誤魔化しが下手だった。
「とにかく、いきましょう!」
「マツオカ、皆と言うのは、船員皆のことですか?」
「さ、早くいくッスよ!!」
目が明らかに泳いでいたが、なってしまったものは仕方がない。どうせ自分には説教する権利もないように思えた。彼らと同じことをしたのだから。
2人に急かされるまま進み出した。2人も滑るようにして進んでいた。

暫くして微かにせせらぎが聞こえてきた。
暗闇の中でもはっきりと見える、大きな河が見えてきた。水の臭いがする。
どうやって渡るのだろうと思った途端、目の前に木製の橋が架けられた。
「さ、急ぎましょう!皆待ってます!」
橋の強度を確かめる前に、マツオカが足を踏み出していた。考えてみれば、自分は歩いているという訳ではないのだ。落ちることを心配する必要はないだろう。
橋を渡ると、先の方から笑い声が響いてきた。かなりの人数だ。
「もうすぐッス!!」
2人の歩みが速まった。喜びを隠しきれない様子だった。
大勢の人が見えてきた。どうやら殆ど全員が自分の後に続いたようだ。思わず呆れてしまったが、どこか嬉しくもあった。また皆一緒だ。
中心で皆に取り囲まれている、一際背の高い2人を見つけた。胸が高鳴った。向こうも気づいたようで、こちらを振り返った。
2人とも、1番会いたかった人だ。
「――ヨシノ!!遅かったね!」
「お前、どこほっつき歩いてたんだよ?」
船員の群れがサッと割れ、道を作った。
駆け出していた。堪えきれずに流した涙が、背中をキラキラ飾った。受け止めてもらえる位置まで走って飛び込んだ。
温もりを感じた。彼の心はそれだけで温まった―――

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