深雪は呆然と、目を閉じることも忘れ、されるがままになってしまう。


三宅は唇を離すと、深雪のすぐそばで「おやすみ」とささやいた。


「お、おやすみなさい……!」


何が起こったのかよくわからないまま、深雪は慌てて車を降りた。


胸がドキドキと鼓動を激しく打ち鳴らす。


やっぱり今日はついている。


でも、でも……。


三宅の車が静かに動き出し、見えなくなってから深雪は思わず叫ぶように言った。


「わたし、今月で会社辞めるんだけど……!」


サービス残業ばかりの会社は嫌だ、とホワイトな会社に転職するのだ。


三宅は深雪がもうすぐいなくなることを知っているのだろうか。



(サービス残業、終わり)