「すみません、もう閉店時間過ぎてますね」


幸は石橋に頭を下げると立ち上がり、伝票をレジに持って行った。


「うん。だけど、まだ雨が止んでないんだ」

「え?」


ガラスの玄関ドアの向こうを見ると、確かにまだ降ったままだ。


もしかしたら、さっきよりも雨脚は強くなっているかもしれない。


「本当だ。でも――」


石橋は「ちょっと待ってて」と奥へ消えた。


どうしたんだろう。


すぐに戻ってきた石橋の手には黒い傘が握られていた。