「はい、どうぞ」 カフェで夢中になって本を読んでいた幸(さち)は、コトンと音がして、顔を上げた。 目の前に生クリームを浮かべたカップが置かれている。 「あの、頼んでないです」 「うん。でも、ほら」 この店の店長だという若い男性、石橋(いしばし)は窓の外を指さした。 いつの間にか雨が降り出していた。 「雨」 「そう。お客さん、傘をもってないでしょ? もう少し飲んでいきなよ」 彼はそう言うと、空になったカップの方を下げる。