「何で付いて来るンですかあー?
一人で帰ればいいんじゃないですかあー」
くねくね踊りながらからかってみる。
大騒ぎの余韻。

「俺んちもこっちだ。知ってんだろうが」
顔にデカイ湿布張りつけた岩佐。
しゃべりにくそう。

「今日、スッゴく楽しかった」
きらきらしてるマサヨシ。さらに言う。
「えへへ、みんなカッコよかったー‼
啓一郎さんも、相沢先輩も、矢広先輩も、
見てたみんなも、先生も」

「けっ、だっせえー‼女に負けてカッコいいわけねえだろ?何が引き分けだ……!
汚点だ。汚点‼」
照れ隠しか?岩佐。
顔、めっちゃ、しかめてわめく。

「自分からあんだけ汚ない事しといてよう言うわ‼
なんだよ、最後のアレ」
俺は根に持つよ?

「はあ、おなかすいた。なんかあったっけ……」
カバンをゴソゴソし始める京子さん。

「オイ‼こっちはこれでもヘコんでんだぞ?
お前は一人で、食いもン食うのかよ」
あきれる岩佐。

「あー、なんも無いか。そういえば食べたんだった」
チヨコバーの包み紙を、むなしく引き出す京子さん。

カバンから封筒が落ち、
封が開いて、写真が散らばった。

「何の写真だ?」
岩佐が一枚、拾い上げる。

「ああ、アタシの父と兄が送ってきた写真。
また来たんだった」
残りの写真を拾いながら、説明する京子さん。

「……俺のオフクロが写ってる……!」
岩佐の目が点になる。

「はア?」
京子さんと俺が覗き込む。

「ほら、ここ。この一番端」

ポニーテールに赤のタンクトップ、
ダメージジーンズにバンダナのベルト。
気の強そうな中年の美人がそこにいた。

この人、岩佐の母ちゃん?

「なあ、相沢、これ、何処だ?」

「……カナダ」

「カナダ?‼」
岩佐は写真をまじまじと見た。

「……カナダかよ……」

眉をひそめ、
「ひょっとして俺のオフクロ、
相沢の親父と交際中とか?」

「……は……。それはないと思うけど」

「すると……、相沢と俺は義理の兄妹?」

「イヤイヤ、無いだろ、それは……」

「……妹よ……‼兄だ‼」

「それ、……ぜっつ……たい無い‼」
超絶・完全否定の京子さん。

岩佐は、夕陽に煌々と顔を、照らされながら、

「海外留学ってのもアリかもな……!」
と、つぶやいた。




夕暮れのなか、帰ってゆく啓一郎とマサを
立ち止まり、しばし見送る。

夕陽に照らされる京子さん。
髪の毛が、まつげが、光っている。

きれいだ。
瞳が意志にあふれ、そして優しい。








ちゅっ。



「……なっ‼……なな?何すんだ‼」

「あの、彼氏に向かって何すんだは無いと思いますけど」

京子さんは憮然として、
「不意討ちは卑怯だ」

「言ったら逃げるっしょ」

「あ、そうだ。上の兄が帰ってくる」
急に、思いだしたように言う京子さん。
「『女性に護身術を教える教室を開くんだ』って。
それで、『仕事しながらでも、お前も手伝え』って……」

えー。
「それ、俺がキスした流れで思いだしたわけじゃないよね?チカン扱いですか」

「ううーっ……キスって言うな」
顔をくしゅくしゅにする京子さん。
夕陽でよくわからないけど、多分、
真っ赤だ。

「ははは……」
余裕で笑ってるふりして、俺も。


もいっかい、ちゅ。

「これって、青春なのか?」

「ううーっ……。知るかバカっ……」

夕日は、いつまでも赤いのであった。






おわり。