「学校のお友達かね?そちらのお嬢さんは?」
そう、じいちゃんは京子さんと会うのははじめてだ。

「前に話してた、京子さんだよ」

「ほほう。この子が?」
目を丸くするじいちゃん。やっぱり考えていたイメージとはずいぶん違ったようだ。

「はじめまして。相沢京子です」
ペコリとお辞儀する京子さん。

「なるほど、みれば身体の周囲の気が、並の人間よりはるかに澄み切っておる」
そう言うじいちゃんの雰囲気も静けさが増してきた。

イヤな予感。

「聞けばお前さん、かなりの使い手で学舎の拳聖と誉れ高き存在とか。お父上も格闘家というが……」
イヤな予感、的中。

じいちゃん、発する気迫が普通じゃない。
あのね、孫の彼女だって事も、
話しましたよね?

にかっと笑う。
……超、嬉しそう。
「ちょーっと試してみてもいいかの?
手合わせ願えんか?」
じいちゃんの身体から、冷気が吹き出す。

……うわ、本気?
俺もこうなるとうかつに身動き取れない。

マサヨシをチラッと見ると、涙目になって震えている。
冷気は濃い殺気に変わり、場を満たして行く。
京子さんも微動だにしない。

……じ、じ、じいちゃん……や、やめ……。
こ、怖ッツ‼






スパーーン‼



うわーッツ、決まったーッ!

京子さんが動いたーッ!
先手を取ったーッ!

すぐ側のドラム缶の上にあったスポーツ新聞を、一瞬でつかんでじいちゃんの肩をはたいたーッツ!
お笑い芸人も舌を巻くッツ込み‼

じいちゃんは被ってた野球帽がちょっとズレて、情けない感じに。

「あの、竜太のおじいさん?冗談が過ぎますよ?」
京子さん、スポーツ新聞で自分の肩をポンポンしながら、

「そんな殺気出してたら、中途半端に強い、根が臆病なヤツはすぐ、かかって来てたでしょ。ケンカに強くなる訳、これは」
そして、じいちゃんをギラリとにらむと、
「おかげで孫は危うく人殺しですッ。
もうちょっとマシな拳法を勉強してください。
教える立場ならなおさら」

急にふにゃふにゃのトホホ状態になる
負けじいちゃん。

「このワシがこんな年若い者にッツ込みを
許すとは。……ヤキがまわったもんじゃの……
久しく絡み甲斐のある者におうたと思えば」

けど、このひと諦めが悪いんです。
「ワシは間違った事は教えとらん。
大切なものを守るのは、命がけの事じゃ」

野球帽のつばをぴっ、と直す。

「こうなったら後には退けん!殺気は破られたが、まだまだ技がある。さあ、わが秘奥義を受けてみるがいいぞ‼」

バッ、ババッ!ババババッ‼

ジャンパーの袖をはためかせ、型を決めるじいちゃん。
こ、この型は‼

ババッ!ババババッツ!
「キエエイイッ!」

ヤバイ‼
「京子さん、下がって!ここは俺が!」
じいちゃんに対して、型を返す俺。

ババッッ‼
「チョアアアアーッ!」

静かに目を閉じる京子さん。
「見切った……」


え?もう?



「キョエエエーッ‼」
奇声をあげるじいちゃん。気迫に満ちている。


京子さんは目を開くとかたわらを見やり、
「マサヨシ、帰るぞ。これ以上長居は無用だ」
ゆっくりときびすをかえす。
戦いを終えた者の風格がにじみ出ていた。

「え?この状態を放置して帰るんですか?」
とまどうマサヨシ。
振り返りながら後に続く。

じいちゃんの秘奥義、真鶴滑空拳。
いつまでもアホな型を決めつつ、
相手の戦意を削ぐ高等戦術である。

まさか、こんなに早く見切るとは。さすがだ。

けど……。

「京子さん‼さっきの見事なッツ込みは?
……誰かー!誰かッツ込んでー!」

「そう言えば仕事じゃのお……」

「クケーッツ‼」