彼女は肩に下げた小さなカバンからスマートフォンを取り出すと、少し操作してから耳に当てる
そのまま数秒待った後
「あ、もしもし。景?」
と僅かに視線を泳がせつつ呼びかけた
「あなた今、男子寮Bにいるの?.......そう、そうよね。......ううん、さっきね、この前あなたが男子寮Bに来たと言っていた、相生君を見かけたと思ったの。でも彼、謹慎中だしそっちにいるはずよね?.......そうよね!私が見間違えたみたい。ううん、なんでもないわ。確認したかっただけよ」
有姫は頷きながら笑顔をこぼし、安堵した表情を作る
それから瀧居の表情をちらりと伺った
「.......」
その様子からして、有姫の言葉を疑ってはいないようだ
軽く挨拶をして通話が終わると、有姫は
「というわけで、私の見間違いだったわ。ごめんなさい」
と彼女にしては珍しく浅く頭を下げる
「瀧居先輩の彼女さんに、いるはずもない相生君を探しに行かせてしまったわ」
「いやあいつのことは.....」
言いかけた瀧居の言葉を、結斗が明るく遮った
「何があったのか詳しくはわからないけど、幸いなことにこれだけ人数がいる。手分けすればすぐに彼女のことを探し出せるんじゃないかな」
「そ、そうね!」
「僕も探そう。みんなも手伝ってくれる?」
聖人君子のような結斗の問いかけに、美女たちは笑顔になって頷く
ここがタイミングとばかりに、ライと咲夜、市河はこぞって結斗を褒めちぎった
「さすが伊吹...くん。瀧居先輩とは大違いね」(ライ)
「伊吹君が探しに行くなら私も行こうかしら!」(市河)
「こんな男、見損なったわ!!カッコいいと思ってた私がバカだった!!」(咲夜)
「き、君たち......!」
最初に声を掛けられた時とは打って変わって、手のひらを返され面食らう瀧居
その上、後輩である結斗と比較されて立場がない
あまり状況がつかめていないものの、この騒ぎを気にしていたステージ上の元生徒会役員3年生からは「うわぁ」だの「なんか悲惨だな」だの、失笑が聞こえてきた


