僕はチラリと柚木さんを睨み付けた。


柚木さんは何でもないような表情を浮かべている。


僕が睨んだ理由も察していないのかもしれない。


後で説教してやらないと。


そう思いながら、僕は若竹さんにハンカチを手渡した。


この仕事をしているときには必ず持ち歩くようにしている。


「ありがとう。ごめんね、急に泣いたりして」


「いいえ」


このくらいのこと、よくあることだ。


泣かない依頼者の方が珍しいくらいだ。


「じゃあ、さっそく家に行きましょう」


涙を拭いた若竹さんは、気を取り直すようにそう言ったのだった。