険しい表情を浮かべたまま、なにか口の中でブツブツと呟いている。


その音は僕にも柚木さんにも聞こえてはこなかった。


「さぁ。こっちの事情は説明したんだからね」


柚木さんが気を取り直すように腕組みをしてそう言った。


しかし、翔平にはそれすら聞こえていない様子だ。


明らかに様子がおかしい。


なにか呟いていたかと思うと、急に落ち着きなく周囲を見回し始めたのだ。


「ごめん。僕はもう行くよ」


「ちょっと、翔平!?」


柚木さんが止めるより先に、翔平は逃げるようにして離れから出て行ってしまったのだった。