「仕事が入ったよ」


柚木さんへ向けてそう言うが、彼女は反応しない。


「隣町だから電車で15分くらいかな」


僕は大きな独り言を言いながら準備を始める。


その様子を柚木さんが目の端で追いかけていることを、僕は見逃してはいなかった。


「今日は留守番しとく? 体調が悪そうだしね」


さっさと準備をすませて柚木さんへ向けてそう言った。


「……」


柚木さんは無言のままそっぽを向いてしまった。


体調が悪いようではなさそうだ。


それなら……。


「じゃあ僕は行ってくるよ。隣町と言えばこの前おいしいクレープ屋さんができたって噂で聞いた――」


そこまで言った時、僕の腕をつかむ柚木さんがいた。