そう聞いたのは柚木さんだった。


相変わらず踏み込んで行っている。


若竹さんは声には出さず、頷いた。


「和男は事故があったときに犯人の顔を見ていたそうです」


「それなら、若竹さんの未練も晴れるじゃないですか」


柚木さんの言葉に、若竹さんは左右に首を振った。


「でも、教えてくれなかったんです」


「え?」


驚いて、僕はそう聞き返した。


「犯人を見ていたのに、『僕は死んでからも幸せだから、気にしないでほしい』って、言うんです」


若竹さんの声が震える。


俯き、涙をこらえているのがわかった。