君のいた時を愛して~ I Love You ~

 早番の日は、朝からスーツでコータは出勤し、ランチに合わせてサチは大将の店に出勤する。そして、サチは帰りがけに買い物をして、コータの帰りを待つ。コータは残業のない日は、仕事が終わるとまっすぐに帰ってくるし、PHSがあるから遅くなる日や、職場の付き合いのある日もサチが不安になることはなかった。
 コータの仕事が契約社員になったこともあり、収入が安定し、二人はシングルベッドしか置けない部屋からせめてダブルベッドが置け、お風呂のついたワンルームマンションに引っ越そうかと、しばしば話し合うようになっていた。
 そんなある日、サチ宛に一通の郵便が届いた。
 その筆跡を見た瞬間、サチの顔面は蒼白になり、手紙を掴むとサチは猛スピードで近くの郵便局へと駆け込んだ。
「この住所に、この人は住んでいません」
 そう何度も言うサチに、郵便局の職員は訝しそうな目でサチを見つめた。
「あなたは、中村幸さんで、牧瀬幸さんじゃないわけですね?」
「はい。そうです」
 サチは説明すると、手紙に『宛先に見当たりません』というスタンプを押して郵便を送り返してもらった。
 しかし、手紙が届いたという事は、母親に居所が知れたことに間違いはない。
 まだ、『牧瀬』と旧姓で送ってきてくれたから、知らないと突き返すことが出来たが、きっと、次は『中村幸』宛てに手紙が送られてくるだろう。
 籍を入れ、住民票を動かし、コータの扶養家族として健康保険に加入した時から、いずれ母に居所が知られることは想像がついていた。
 だから、サチは家を飛び出してからずっと、住民票もいじらず、健康保険にも加入せず、ずっと居所を隠してきたのだ。それこそ、自分の口座からお金を引き出す時でさえ、わざわざ電車で何駅も離れた銀行のATMを使っていたのに、コータに迷惑が掛かったらどうしようと思うと、サチは涙が溢れてくるのを止められなかった。
 きっと、コータならサチの事を心配して『サチは悪くない』と言ってくれるだろう。でも、きっと、あの人たちがやってきたら、コータが必死に働いて貯めたお金をなんだかんだと理由をつけて巻き上げるに決まっている。
 サチはそう考えると、早く引っ越さなくてはいけないと、そう考えた。

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