広い応接間に通されたサチは、最初の晩、コータが感じたような極度の緊張感に背筋をピッと伸ばしてソファーに腰を置くだけの座り方しかできなかったが、コータは慣れてしまったのか、どっかりとソファーに座っていた。
やがてお茶が運ばれ、無言でいる航をよそに、薫子が話し始めた。
「あら、お二人、結婚されたの?」
「はい。正式に、サチと籍をいれました」
コータが言うと、航がテーブルを叩いた。
「そんなことは絶対に許さない!」
「あなた、許さないって言っても、もう幸多さんは大人なんですから」
あくまでも幸多の味方を貫く薫子に、航は憎しみのこもった瞳を向けた。
「どこの国でも、無理やりに結婚をさせられた場合に向こうにする手段はある」
航の言葉に、コータが航を睨み返した。
「俺は別に、無理やりなんてサチに結婚を迫ってない!」
「逆だ! どうせ、その女の家族に言いくるめられて、籍を入れさせられたんだろう」
航の言葉の意味が分からず、コータは呆然とするだけだったが、サチはガタガタと震え始めた。
「サチ?」
「あ、あの人たちが、こちらにご迷惑をかけてるんですか?」
「ほら見ろ、その女には心当たりがあるじゃないか」
航は鬼の首を取ったかのように言った。
「あ、あたしは、あの人たちとは関係ありません」
「関係ないと言っても、母親と、その情夫。その情夫の愛人だったんだろう?」
航の言葉に、コータは航に掴みかかった。
「なに訳の分からないこと言ってるんだよ。サチが愛人だったとか・・・・・・」
「お前、聞いてないのか? その女は、高校生の頃から母親のスナックで働いて、男に体を触らせては小遣いをもらって、高校を出てからはキャバクラで男に体を触らせて金を稼ぎ、そこの店長の愛人をして、母親の情夫とも関係を持っていたと、近所でも噂の淫乱女だ」
『黙れ!』コータが叫んだのが早かったか、それとも怒りのこもった拳が早かったのか、ほぼ同時だったのか、渾身のパンチを受けた航の体がソファーの背にバウンドした。
誰よりも、昨晩、サチと初夜を迎えたコータがサチの身の潔白を知っていた。どんな酷いうわさも憶測も、いまとなってはコータに一部の疑いすら持たせることが出来ないと、航は知らなかった。
「俺にはわからない。あんたのどこを母さんが好きだったのか。でも、ひとつだけわかる。あんたにはこれだけのお金があるのに、母さんは病気になっても、どんなにお金に困っても、あんたに頼ろうとはしなかった。俺にもあんたの事は忘れろって言い続けた。それは、あんたが愛するに値しない人間だって気付いたからだ。だから、俺もあんたを父親だなんて認めない」
コータは言い切ると、サチの手を掴んで立たせた。
「もう、これっきり、父親でも息子でもない」
コータは言うと、サチを連れて応接間の扉へ向かった。
「幸多、お前も若い、惚れた女に欠陥があろうと、不都合な過去があろうと、大目に見られるだけの器があることは褒めてやる。だが、今日、この家を出て行ったら最後、お前はあのドブネズミみたいな生活を一生続けることになるんだ。それでもいいのか?」
確かにコータの生活はその日暮らしで、余裕が会ったことなど一度もなかった。でも、それをドブネズミのような生活と罵られる覚えはなかった。
「俺は、ずっと、父親に会いたかった。そういって母さんを何度も困らせたことがあった。でも、今ならはっきり言える。俺は、あんたには会いたくなかった。あんたみたいな人が、俺の父親だって、知りたくなかった」
コータは言い切ると、応接間の扉に手をかけた。
「スマホを置いて行け。あれは、お前が私の会社で働くために与えたものだ。出て行くなら、置いていけ」
航の言葉に、コータは荷物の中からスマホとその付属品など一式取り出すと、丁寧にテーブルの上に置きに戻った。そして、航にしか聞こえないように言った。
「あんたが仕入れたガセネタではサチはひどい女だったかもしれないけど、俺と結婚したサチは、俺以外の男を知らない綺麗な体の心優しい女性だ。あんたの調査は、根本から悪意に満ちて歪んでる」
急いで扉のところまで戻ったコータは、再びカバンを開け、今度はスーツを取り出そうとした。
「お前のサイズの服など、ここに置いて行ってもごみになるだけだ。持っていけ」
航の言葉に、コータは取り出しかけたスーツをバッグに詰めなおすと、サチの手を引いて渡瀬の家を後にした。
☆☆☆
やがてお茶が運ばれ、無言でいる航をよそに、薫子が話し始めた。
「あら、お二人、結婚されたの?」
「はい。正式に、サチと籍をいれました」
コータが言うと、航がテーブルを叩いた。
「そんなことは絶対に許さない!」
「あなた、許さないって言っても、もう幸多さんは大人なんですから」
あくまでも幸多の味方を貫く薫子に、航は憎しみのこもった瞳を向けた。
「どこの国でも、無理やりに結婚をさせられた場合に向こうにする手段はある」
航の言葉に、コータが航を睨み返した。
「俺は別に、無理やりなんてサチに結婚を迫ってない!」
「逆だ! どうせ、その女の家族に言いくるめられて、籍を入れさせられたんだろう」
航の言葉の意味が分からず、コータは呆然とするだけだったが、サチはガタガタと震え始めた。
「サチ?」
「あ、あの人たちが、こちらにご迷惑をかけてるんですか?」
「ほら見ろ、その女には心当たりがあるじゃないか」
航は鬼の首を取ったかのように言った。
「あ、あたしは、あの人たちとは関係ありません」
「関係ないと言っても、母親と、その情夫。その情夫の愛人だったんだろう?」
航の言葉に、コータは航に掴みかかった。
「なに訳の分からないこと言ってるんだよ。サチが愛人だったとか・・・・・・」
「お前、聞いてないのか? その女は、高校生の頃から母親のスナックで働いて、男に体を触らせては小遣いをもらって、高校を出てからはキャバクラで男に体を触らせて金を稼ぎ、そこの店長の愛人をして、母親の情夫とも関係を持っていたと、近所でも噂の淫乱女だ」
『黙れ!』コータが叫んだのが早かったか、それとも怒りのこもった拳が早かったのか、ほぼ同時だったのか、渾身のパンチを受けた航の体がソファーの背にバウンドした。
誰よりも、昨晩、サチと初夜を迎えたコータがサチの身の潔白を知っていた。どんな酷いうわさも憶測も、いまとなってはコータに一部の疑いすら持たせることが出来ないと、航は知らなかった。
「俺にはわからない。あんたのどこを母さんが好きだったのか。でも、ひとつだけわかる。あんたにはこれだけのお金があるのに、母さんは病気になっても、どんなにお金に困っても、あんたに頼ろうとはしなかった。俺にもあんたの事は忘れろって言い続けた。それは、あんたが愛するに値しない人間だって気付いたからだ。だから、俺もあんたを父親だなんて認めない」
コータは言い切ると、サチの手を掴んで立たせた。
「もう、これっきり、父親でも息子でもない」
コータは言うと、サチを連れて応接間の扉へ向かった。
「幸多、お前も若い、惚れた女に欠陥があろうと、不都合な過去があろうと、大目に見られるだけの器があることは褒めてやる。だが、今日、この家を出て行ったら最後、お前はあのドブネズミみたいな生活を一生続けることになるんだ。それでもいいのか?」
確かにコータの生活はその日暮らしで、余裕が会ったことなど一度もなかった。でも、それをドブネズミのような生活と罵られる覚えはなかった。
「俺は、ずっと、父親に会いたかった。そういって母さんを何度も困らせたことがあった。でも、今ならはっきり言える。俺は、あんたには会いたくなかった。あんたみたいな人が、俺の父親だって、知りたくなかった」
コータは言い切ると、応接間の扉に手をかけた。
「スマホを置いて行け。あれは、お前が私の会社で働くために与えたものだ。出て行くなら、置いていけ」
航の言葉に、コータは荷物の中からスマホとその付属品など一式取り出すと、丁寧にテーブルの上に置きに戻った。そして、航にしか聞こえないように言った。
「あんたが仕入れたガセネタではサチはひどい女だったかもしれないけど、俺と結婚したサチは、俺以外の男を知らない綺麗な体の心優しい女性だ。あんたの調査は、根本から悪意に満ちて歪んでる」
急いで扉のところまで戻ったコータは、再びカバンを開け、今度はスーツを取り出そうとした。
「お前のサイズの服など、ここに置いて行ってもごみになるだけだ。持っていけ」
航の言葉に、コータは取り出しかけたスーツをバッグに詰めなおすと、サチの手を引いて渡瀬の家を後にした。
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