君のいた時を愛して~ I Love You ~

 警察でもなく、一企業の社長と言う立場では、幸多のスマホの電源が入った場所を後から知ることが出来るだけで、大規模な捜索隊を雇うこともできないし、家庭の事に社員を使うわけにもいかない。
 しいて言うなら、こういうことを想定し、幸多の傍で護衛兼お目付け役兼虫よけに雇った数人の強面の男たちくらいで、都心を離れた場所で電源が入ることは想定してたが、そのあと二人の移動方向を知る手立てはなかった。
 警察ならば、幸多のクレジットカードの利用履歴や、現金の引き出し状況や場所を確認してすぐにでも身柄を確保してくれるだろうが、一個人でそのような事を行うのは不可能だ。
 航は悔しさに奥歯をギリギリと噛みしめながら、最悪の事態について再度冷静に考えてみることにした。
 幸多は航には反抗的だが、母の洋子には盲目的な息子らしい愛情を持っている。そうだとしたら、もし、幸多があのあばずれと結婚したとしたら、そのことを報告に洋子の墓に参る可能性が高い。だとしたら、何日でも洋子の墓を見張り続ければ、必ず幸多は姿を現すはずだ。
 航は考えると、資料のページをめくり、メールで指示と場所を連絡した。
 にわか雇いの部下とはいえ、幸多に逃げられるという失態を犯した後ということもあり、メールの返事はすぐに帰ってきた。
 例え雨が降ろうが槍が降ろうが、墓石に噛り付いてでも幸多が現れるまで、そこで骨になる覚悟で待機しろと、書いてやりたいくらい、あっさり逃げられたバカさ加減に航は腸が煮えくり返りそうなままだったが、その分、警備会社にはクレームを入れてあったので、今度こそは金額に見合う働きを見せてくれるだろうと、信じるしかなかった。
 幸多がいつ見つかるかわからない以上、今日も自宅に帰らなくてはならない。そして、あの鼻持ちならない薫子の嫌味を聞くのだと思うと、航は大きなため息をついた。
 幸多の存在を知り、幸多の必死な生き方、悲壮な学生生活を知るにつけ、まっすぐに育ってくれたこと、まじめな大人になってくれたことを航は本当に洋子に感謝した。そして、幸多と戸籍上も本当の親子になり、一から仕事を教え、いずれは会社を継がせる。そう考えると全てがうまくいくと思えた一月前が嘘のように、航の人生はため息ばかりになっていた。
「男の子と言うものは、あれ程までに父親に対して反抗的なものか?」
 思わず口にしながら、航は自分の過去を振り返った。確かに、幸多より遥かに若い頃、航は父に反抗し、洋子と駆け落ちまでしたのだ。あの時、洋子が妊娠していることを話してくれていたらと、幸多の存在を知ってからずっと航は思い続けていた。もしわかっていたら、頭の固い父だって、家柄にこだわる母だって、優秀な洋子の事を認め、こんな悲惨な結婚生活を送ることなく、幸せに家族三人で暮らせたかもしれないと。航がそう思っていることを見抜いているかのように、薫子の態度は冷たく、恨みがましかった。
 幸多の存在を離した時、隠し子がいるわけないのに、女に騙されたバカな男と言う顔をして航の事を見た薫子に、幸多が本当に航の子供であることはDNA鑑定済みだと知って見せたあの悔しそうな顔、渡瀬家の嫁として、後継ぎを産むのは自分だと、自分の子供が渡瀬家を継ぐと、それだけを考えて嫁いできた薫子にとって、航の病気は寝耳に水で、更に幸多の存在は言葉にならないほどの劣等感を薫子に与えただろう。それだからこそ、薫子は幸多に優しくした。例え自分の息子でなくても、自分が可愛がり、手なずけ、航よりも幸多に良く思われることによって、航に勝つことが出来ると、これまでの復習ができると、きっとそう思っていたに違いない。ここで幸多に逃げられれば、薫子が天狗の鼻を取ったように、いや、鬼の首を取ったように勝ち誇って笑みを浮かべることはわかっていた。
「なんとしても、幸多を見つけなくては」
 航のため息は焦りに変わっていった。

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