ノックの音に顔を上げると、秘書がIT課の人間を案内してきた。
「社長、例のお問い合わせいただいております、ご子息の失くされたスマホですが、先ほど電源が入り、現在地の確認ができました」
良い知らせに航の顔は自然と穏やかなものになった。
「で、場所は?」
「はい、JR小田原駅の構内と思われます」
「なに?」
「あの、本当に回線を停止せずに、そのままでよろしいのでしょうか?」
IT課としては当然の疑問だった。本来なら、携帯端末を紛失した場合、直ちに回線を停止し、使用できなくするのが当然で、紛失後一日も経つのに、そのまま回線を停止せずに放置しておくことに疑問を持っていた。
「ああ、息子が携帯と一緒に大切なものを無くしたのでね、携帯から位置情報を確認して、なんとか大切なものを取り戻したいというのでね。また、進捗があったら教えてくれたまえ」
適当に答えると、IT課の人間は一礼して去っていった。
二人が部屋を出て行ったのを確認すると、航はしまってあった幸多とあの女のファイルを取り出した。
幸多の住民票も戸籍も、あのボロアパートと同じだったが、あの女の本籍地が確かあちらの方角だった気がして、航は慌てて資料をめくった。
「まさか・・・・・・」
嫌な予感が的中し、航は顧問弁護士に電話をかけた。
「渡瀬です。先生、申し訳ないが、急いで幸多の戸籍を調べていただけませんか?」
養子縁組の手続きの為に幸多の戸籍から何から、必要なものは全て取り寄せてあったが、それはあくまでも幸多一人の戸籍で、万が一にも、幸多の戸籍にあの女が入っていたら、全ては振り出しに戻ってしまうことになる。
電話を切った後も、航は心配でたまらなかった。
こんなことなら、いっそ最初の番に、あの女がどれ程いかがわしいかを幸多に伝えておくべきだったと。あの女の素性を幸多が知っていれば、迂闊にも、言葉に載せらせて籍を入れるなどと言う失態は犯さなかっただろうが、今の幸多は、実の父親から逃げるという、精神的には逃亡者のような極限的な側面を持っている。そんなところにあの女が付け込んだとしたら、幸多はその舌先に踊らされ、最大の過ちを犯してしまったかもしれない。
そこまで考えてから、航は大きく頭を横に振った。
そして、自分で自分を力づけるように『大丈夫だ』と呟いた。
たとえ、籍が入っていたとしても、虚偽の申告に基づき、幸多は騙され、脅されて婚姻届けに署名捺印させられたのだと主張して家庭裁判所に婚姻の無効を申し出れば、何某かの手切れ金のようなものを払うだけで解決できるはずだ。
航は考えると、組んだ手にぎゅっと力を込めた。
☆☆☆
「社長、例のお問い合わせいただいております、ご子息の失くされたスマホですが、先ほど電源が入り、現在地の確認ができました」
良い知らせに航の顔は自然と穏やかなものになった。
「で、場所は?」
「はい、JR小田原駅の構内と思われます」
「なに?」
「あの、本当に回線を停止せずに、そのままでよろしいのでしょうか?」
IT課としては当然の疑問だった。本来なら、携帯端末を紛失した場合、直ちに回線を停止し、使用できなくするのが当然で、紛失後一日も経つのに、そのまま回線を停止せずに放置しておくことに疑問を持っていた。
「ああ、息子が携帯と一緒に大切なものを無くしたのでね、携帯から位置情報を確認して、なんとか大切なものを取り戻したいというのでね。また、進捗があったら教えてくれたまえ」
適当に答えると、IT課の人間は一礼して去っていった。
二人が部屋を出て行ったのを確認すると、航はしまってあった幸多とあの女のファイルを取り出した。
幸多の住民票も戸籍も、あのボロアパートと同じだったが、あの女の本籍地が確かあちらの方角だった気がして、航は慌てて資料をめくった。
「まさか・・・・・・」
嫌な予感が的中し、航は顧問弁護士に電話をかけた。
「渡瀬です。先生、申し訳ないが、急いで幸多の戸籍を調べていただけませんか?」
養子縁組の手続きの為に幸多の戸籍から何から、必要なものは全て取り寄せてあったが、それはあくまでも幸多一人の戸籍で、万が一にも、幸多の戸籍にあの女が入っていたら、全ては振り出しに戻ってしまうことになる。
電話を切った後も、航は心配でたまらなかった。
こんなことなら、いっそ最初の番に、あの女がどれ程いかがわしいかを幸多に伝えておくべきだったと。あの女の素性を幸多が知っていれば、迂闊にも、言葉に載せらせて籍を入れるなどと言う失態は犯さなかっただろうが、今の幸多は、実の父親から逃げるという、精神的には逃亡者のような極限的な側面を持っている。そんなところにあの女が付け込んだとしたら、幸多はその舌先に踊らされ、最大の過ちを犯してしまったかもしれない。
そこまで考えてから、航は大きく頭を横に振った。
そして、自分で自分を力づけるように『大丈夫だ』と呟いた。
たとえ、籍が入っていたとしても、虚偽の申告に基づき、幸多は騙され、脅されて婚姻届けに署名捺印させられたのだと主張して家庭裁判所に婚姻の無効を申し出れば、何某かの手切れ金のようなものを払うだけで解決できるはずだ。
航は考えると、組んだ手にぎゅっと力を込めた。
☆☆☆



