涙に逢うまでさようなら

「俺が美紗に憧れるのはそんなに変なことかな? ないものねだりみたいなもののように思えるけど」

わたしはため息をついた。

「大翔に限ったことじゃなく、わたしに憧れるのはそこそこおかしい。昨日も言ったように、わたしは冷静に見れば現実を見られない馬鹿な女だ」

わたしの続けようと思っていた言葉を遮るように、大翔は「でも」と言った。

「でも、現実しか見られない人からすれば美紗みたいな人は憧れの対象になるんじゃない?」

わたしは目を閉じ、数回頷いた。

「わかったわかった。君は正常で、病院へ行く必要もないよ」

ため息を挟み、言葉を続ける。

「ところでわたしは今日、ここでなにをすればいいの? あとそうだ、昨夜死を覚悟したとメールで言ってたけど、本当?」

「美紗は、昨日のようにそこにいてくれればいい。昨夜死を覚悟したのは、少し盛ってるけど嘘ではないよ」

わたしは盛ってんのかよと苦笑を挟み、嘘ではないという言葉に「そうか」と頷く。

「本当、俺今日なにしたっけってくらいで。おまけに痛みのやつ、一度お友達の悪心ちゃんを連れてきてね。そいつのせいでしばらくトイレにこもってた」

大翔は後半、胸の下辺りをさすり、困ったような笑みを浮かべながら言った。

胃が痛かったんだと独り言として呟くと、大翔は人生初の胃痛だよと苦笑した。

「ところで、悪心の『お』にアクセントを置く人初めて見たわ」

「それで、本当にやばいんじゃねって思いかけて、美紗に連絡しようかとも思ったの」

アクセントの話は声に出したよな、と頭の隅で考え、「へえ」と頷く。

「何時頃?」

「夜の八時……八時半だったかな。まあそんな頃」

「ふうん。その時間なら連絡くれればよかったじゃん。

わたし、どんなに早寝の日でも零時過ぎまでは起きてるし。まあ、なにをしてあげられるわけでもなかっただろうけど。

ていうか、なんでそんなんになるまで無理するかなあ……」

「無理したつもりはないんだけどなあ……」

大翔は両脚を上げ、ベッドの上であぐらをかいた。