涙に逢うまでさようなら

「で、昨日はあれからどうしてた?」

大翔の部屋のドアを閉めながら尋ねる。

大翔はベッドに座った。

「まさか勉強なんかしてないよな?」

わたしが続けると、彼は「してないよ」と困ったような笑みを見せた。

わたしはふうと息を吐き、ベッドから六十センチメートルほど離れた場所にあぐらをかく。

「いやあ、それにしても。君は独特なセンスの持ち主だね。『取り越し苦労』のティーシャツに臙脂色のスウェットとは」

「いや、臙脂色じゃないよ。これはバーガンディだ」

「知らないわよ、そんな細かいこと。どうせ同じような色なんでしょう。おはぎとぼたもちの違いみたいなもんでしょ?」

「おはぎとぼたもちの違いはわかりやすいじゃん。春がぼたもち、秋がおはぎだよ」

「うっぜえ……。あんた、腹痛くなってからめんどくさいやつになったろう?」

わたしが言うと、大翔は「そうかなあ?」と首を傾げた。

「病院へは行ったか?」

「いや、行ってない」

「行けよ。わたしに対して憧れの感情を抱く時点でどこかに異常があるはずだと言ったろう。

君が今すべきことは、異常な思考回路を持つ少女に憧れの感情を抱いてしまうと……そうだな、心療内科とかその辺りに相談することだ。

そうしたら恐らく、他の科へまわされる。それに従っていけば、わたしに対する普通でない感情も、その腹の痛みも治る」

大翔は「そうなのかなあ」と呟いた。