涙に逢うまでさようなら

「ところで、今日初めて見たときから思ってたんだけど、そんな変なティーシャツ、どこに売ってんの?」

わたしは大翔の腹の辺りを指さして言った。

彼は自身のティーシャツを見て、「ああ」と笑う。

「これねえ……」

「このパーカーが売ってる店にはないでしょ?」

わたしが両腕を軽く広げると、大翔は「そこじゃないよ」と頷いた。

「ちょっと個性的な服屋さんにあった。この他にもね、レモンとか豆腐、ハッサク、ハッカ、読み込み中、取り越し苦労、陸の上の海上自衛隊がある。

読み込み中は漢字三文字で後ろに点が三つついてて、豆腐は横書きで、下に全部大文字で書かれたトーフがかっこで囲われてる」

「個性的過ぎないか? そんな服を作る会社も、それを買う君も」

「面白くない? 俺こういうの好きなんだ。安いんだよ、こういう服」

「嫌だよ、そんな服に数千円とか飛んでったら」

大翔は苦笑した。

「その『葡萄』にも驚いたのに、なによ、『陸の上の海上自衛隊』って。勤務時間外の海上自衛隊のことか?

『取り越し苦労』はなにがあった。知り合いがそんな服着てたら、会ってすぐとりあえず落ち着けとだけ声掛けるわ。

『読込中…』はなにを読み込んでる。

最後に確認だけど、レモンとハッサク、ハッカは漢字?」

「漢字だよ」

「漢字かよ。『檸檬』、『八朔』、『薄荷』……」

声に出しながら、その文字が書かれたティーシャツを頭に浮かべた。

どれも、自分が着たいとは思わない品だ。

「全部縦に書いてあるの」

こんな感じで、と続け、大翔は着ている服を見せつけた。

「ふうん……。で? 外に着て行ったりもするの?」

わたしが尋ねると、大翔は「いやいや」と手を振った。

「さすがにこれだけではないよ。上にパーカーを羽織ってならあるけど」


公園や図書館で会っていた男が着ていたあのパーカーの中が

この言葉では表しきれぬほどの個性に溢れたティーシャツであったかもしれないと思うと、

その服で外出てんのかよと突っ込むこともできなくなった。