涙に逢うまでさようなら

「未来とか将来ってさ、壊すのは驚くほど簡単なのに、再建するのはなんでこんな大変なんだろう」

大翔は腹部に添えた自身の手をぼんやりと眺めて言った。

わたしは鼻で笑った。

「なに気持ち悪いこと言ってんの。なに、なんかあったの?」

言いながら大翔の方へ体を向け、あぐらをかいた。

「いや……」

「あんたさあ、事実が全部顔とか雰囲気に出ちゃうのになんで嘘つこうとするの? 無駄だからやめな、ちゃんと言って」

大翔は苦笑し、口を開いた。

「この部屋の向かい側にもう一つ部屋があるじゃん?」

「うん」

「あそこ、兄の部屋なんだ。で、少し前に俺、風呂入るときにドア閉めるの忘れてたんだ。そうしたら、兄が部屋の中見たらしくて」

ほとんど無意識のうちに「気持ち悪」と言ってしまうと、大翔は「そういう人なんだよ、彼は」と冷静に言った。

「それでまあ、勉強してるの知られて……。風呂出て戻ってきたら、『なにしようとしてるか知らないけど、一度壊れたものは戻りやしない。戻るとしても、相当の苦労を要する』って」

「ふうん、なるほど。そんなわかりきってること言われてもって話だな」

「それで、美紗ならこう言われた場合どうするだろうって考えた」

「はっ? わたし?」

大翔は一度頷き、続けた。

「俺、美紗みたいな人になりたいんだ」

「あ、そう……。もうなってるじゃん」

わたしが言うと、彼は「なれてないよ」と呟いた。