涙に逢うまでさようなら

「ねえ、今日は……ていうかしばらく休まない? そんな状態で続けても、悪化するだけじゃない? 内容も入ってこないだろうし」

大翔は腹部の左方に左手を押し当てたまま、「でも……」と呟いた。

「わかってる。兄に負けたくないんでしょ? でもさ、わたし、もうすでに負けてないと思うんだよね。

彼ら、挫折したことないでしょう。それに対し、わたしたちは自業自得とはいえこの上ないほどの危機に直面している。

このまま勉強から逃げれば、これと同等かこれ以上の苦労を味わうことになる。

人間、学問的な賢さじゃないと思うの。人間としての賢さの方が生きていく上で使う気がしてる。

仕事内容は覚えてくれても教えたことでしか対処できない人より、

仕事内容を覚えるのに時間は掛かるものの、ある程度のことをその場面にふさわしい形で対処できる人の方が、素敵じゃない?

で、わたしや大翔の兄のような、覚えることだけに特化している人は、恐らく教わったことだけを使って全てを対処しようとするはず。

臨機応変に対応する力って、こういう、死ぬより人並みにまで這い上がる方が大変ってところまで落ちた方が身につくとわたしは思ってる。

まあ一応、死なずに人並みにまで這い上がる選択をすると、その目標をいかに楽に達成するかを考えるじゃん。それがわたしたちの場合高認だったんだけど。

こういうの繰り返してた方が、人間として成長できる気がしない?」


わたしが語り終える頃には、大翔はぽかんとした顔でこちらを見ていた。