涙に逢うまでさようなら

しばらくぼんやりと一点を見つめていると、「美紗?」と大翔の声が聞こえた。

どきりとすると同時に大きく息を吸い込み顔を上げると、自然と笑みが浮かんだ。

視界には、若緑色のパーカーを着た大翔が現れた。

「大翔」

「おつかれ」と笑う彼の顔は、少し強ばっているようにも見える。

引かれただろうかと思い、普段通りの自分を探す。


「早いね。何時頃きたの?」

ショルダーバッグを机に置きながら掛けられた問いに、「九時半頃」と返す。

大翔は片手を椅子に置き、「なんでそんな」と訊き返した。

あんたに会いたかったからなんていう誤解しか招ないような言葉など吐けず、「別に」と低い声で返した。

「そっかあ……」

大翔は「勉強してたの?」と問いながら向かい側の椅子に座った。

「してない」

「そう……」

大翔はわたしから目を逸らし、数回深く呼吸した。

「家でなにかあった?」

「いや、なにも。なんで?」

「ううん。勉強のためじゃなくそんな早くにきたなら……なにかあったのかなって」

「違うよ」と返すと、大翔は「それならよかった」と少し表情をやわらげた。