涙に逢うまでさようなら

落ち着きを取り戻そうと、図書館を訪れた。

しかしこの場所が落ち着くわけではない。

大翔といる時間が落ち着くのだ。

彼といるときは、不思議となにも考えずにいられる。

勉強が面倒だとか疲れただとかは考えるが、焦燥感や劣等感、虚無感は感じない。

それらを感じるのは、大翔と別れたあと、帰宅してからだ。

出逢った頃はただの気持ちの悪い男であった相原大翔という人間が、ここまで大きな存在になるとは思いもしなかった。


いつもの席に、まだ大翔の姿はなかった。

さすがにまだかと心の中でこぼし、小さく息を吐いて椅子に座った。

大翔は今頃なにをしているのだろうかと考えると、昨夜とは違い、少し気分が軽くなった。

時間を確認しようと、トートバッグから携帯を取り出した。

ロック画面で九時三十分という時間を確認した直後、九時三十一分に変わった。


ふと、大翔をここへ呼び出してしまおうかという考えが浮かんだ。

しかし、こちらがなにか特別な感情を抱いていると解釈されたらと思うと、恐ろしくてとても行動に移すことはできなかった。