そんな家に対し、公園は好きだ。

平日の昼間、かなり広いということもあってか、人を見かけることがほとんどない。

奇跡のような確率で、ランニングに励むおじ様を見かけるが、彼らと言葉を交わすことはない。


予定の二十時頃、玄関のノブに手をかけた。

「美紗(みさ)」と名前を呼ばれた。

三歳離れた兄、雄輔(ゆうすけ)の声だ。

らしくもなく遅いお帰りで、と心の中で呟く。

「今日も行かなかったんだ?」

「関係ねえだろ」

兄はふっと笑った。

「恥ずかしいんだよね、妹がそんなだと」

今度はわたしが笑った。

「わたしも恥ずかしいよ? 兄が勉強に囚われてて」

「お前は勉強の大切さをわかっていないんだよ」

わたしは肩をすくめ、家の中に入った。


一段目の階段に足を載せると、兄が玄関のドアを開けた。

「雄輔おかえり」という母親の明るい声のあと、「ただいま」と兄の優しい声が聞こえる。

「今日は遅かったわね」と話す母親の声を聞きながら、わたしは階段を上った。