月の下旬、わたしは相原家にいた。


あれから計四件大翔から電話があり、うち三件を無視し、最後の四件目の電話に出た。

話は高認についてで、「わたしは受けない」と断ったが、

最終的に「美紗には特別な力がある」だとか「美紗とだと勉強に集中できる」だとか

わけのわからない言葉を掛けられ、

人のためになるのは嫌いじゃない上単純な部分もあるわたしは、

大翔がいい方向に進めるのであればと思ってしまった。

そのせいで今、大翔の部屋で大嫌いな勉強をしている。

「わたしはあんたの勉強の応援のためにきたんだが」と言ったところ、

「俺は美紗とだと勉強に集中できるって言ったんだよ」と返ってきた。

美紗がいれば勉強に集中できると言ったのではなく

美紗との勉強ならば集中できると言ったのだとでも言いたげな光が、そう言った彼の目の奥に宿っていた。


やられたなと思った。

美紗とだと勉強に集中できる――。

どちらの意味でも受け取れる言葉だ。


大翔はわたしと同じように、嘘を嫌う人間だ。

だからあのような言葉を選んだのだろう。

しかしわからない。

大翔はなぜここまでしてわたしに高認を受けさせたいのだろうか。

わたしたちは友人以下の関係であり、互いの将来を気にするほど深い関係ではない。