涙に逢うまでさようなら

「大翔、家でなにかあったのか?」

「いや、今はないよ」

「今は?」

気になった部分を繰り返すと、大翔は苦笑し、深く座り直した。

膝上に肘を載せ、脚の間で手を組む。

「中学校に俺の名前があった頃ね。めんどくさかったんだよ、家。

朝は、日替わりで父親だったり母親だったりが部屋にきて、夜は両親より先に帰宅した兄が部屋にくる。

両親は『兄を見習え』、兄本人は『弟がだらしなくて恥ずかしい』ってさ」

まあわかるけど、と大翔は苦笑した。

「大翔、気い弱いよね」

彼はわたしを見た。

「わかっちゃだめでしょ、向こうの言うこと。わかっちゃうくらいなら行っときゃよかったのに」

「意味もわかんないのに?」

「おやおや、わたしには強気ね。奴らにもそれくらいでいなきゃだめだよ。

全力で反発し続けたわたしでさえひたすら攻撃食らってたんだから」

「美紗も中学の頃こんなだったの?」

「まあね。全く同じ」

兄とは何歳離れているかを問うと、六つ離れていると返ってきた。

そうかと頷く。