涙に逢うまでさようなら

「美紗の家って? 父親もおかしいの?」

「おかしい」

少し笑いながら繰り返した。

「まあ母親とは若干違う系統だけど、彼も頭はおかしいよ。学歴に囚われてる人間なんだよね、父親は。母親は、頭のいい人間に育てたいタイプ。

将来の考え方は、父親は、稼げる格好のつく仕事に、母親は頭のよさをアピールできる、言い換えれば、頭を使う仕事にって感じかな」

「へええ……。そんな両親絶対嫌だ……」

わたしは再び笑った。

「大翔、うちの親ばっかり頭おかしいみたいに見てるけど、実際はあんたんとこもおかしいんじゃないの?」

「うちはただ、優秀な兄だけを愛してるだけだから。普通でしょう。

どこの家だって、できる長男や長女とできない次男や次女ならできる長男や長女を愛するでしょう。その逆なら次男や次女を愛するだろうし」

「いや、わたしはそれもおかしいと思うよ」

大翔の言葉を聞いている途中でしたくなった舌打ちを言葉に直した。

彼を見れば、頭の上に疑問符を浮かべていた。

「上の子が優秀で下の子がそれに劣るにしてもその逆にしても、親は平等に愛するべきだと思う。自分らでつくった一人の人間なんだから。

優秀なのも劣ってるのも、根は親の影響でしょ。それを子供自身のせいにし、突き放すのはどこかおかしい」

大翔は小さく笑った。

「美紗ってかっこいいね。なにに対してもちゃんと自分の考えを持ってる」

きっと大物になるよ、と続けた大翔に、誰目線だよ笑い返す。