ベンチには、空がくすんだ水色になるまでいた。

ベンチを立つと、湿った風を受けながら薄暗くなった公園を歩き、空に星が顔を出すのを待った。


家まであと数メートルというところで、電話越しに誰かと話している雄輔に会った。

わたしと目を合わせると、彼は言葉を止め、電話の相手への笑みを消した。

わたしと目を逸らすと同時に「いや、なんでもない」と言って話を再開する。

彼は家の敷地に入って、「じゃあまた」と言って電話を切った。

肩にかけていたトートバッグに携帯をしまう。

バッグから出された手には鍵があった。

玄関前で、わたしは雄輔が鍵を開けるのを待った。

彼は一人で帰宅したように鍵を開け、家の中へ入る。

「雄輔おかえり」という母親の声のあと、彼の「ただいま」という声が聞こえる。

わたしは二人の話し声が遠ざかってから、閉められた鍵を開け、中へ入った。