涙に逢うまでさようなら

スイートベースの練り香水もまた、不思議な香りがした。

甘いバニラの香りの奥に、言葉で表すのは難しい、和を感じるものがあるような、そんな香りだ。


「これもいい匂いです。静子さん、どうしてこんなにいろいろ作れるんですか?」

「なんでだろうね……。敢えて言うなら、天才だから、かな?」

「ああ、なるほど……」

少し前のわたしかよと思いながらも、なんとか笑顔を作った。


「そうだ。スイートベースではもう一つ作ってみたの。これはどう?」

蓋に赤紫色の星のシールが貼られた容器に、なっちと同時に手を伸ばした。

無言で拳と開いた手を出し合い、開いた手を出したわたしが容器を手に取る。

手首を拭き、適量を馴染ませた。

こちらのスイートベースは、甘いバニラの香りをミントのような爽やかな香りが追ってくる、といったものだった。

なっちがそれを手にすると、「バニラだ」と一言放った。

「甘いだけ?」と言う想定外の言葉が来たといった雰囲気の静子さんに、

「あとからミントのような香りが来ます」と自分の感想を伝えた。

なっちは「本当?」と匂いを嗅ぎ直す。

「いや、やっぱりバニラだよ」

わたしがおかしいのだろうかと思い手首を嗅いでみるも、感じた香りは先ほどと変わらなかった。

「まあね、これは甘いのだけ感じるか爽やかも感じるか、人それぞれ変わるように作ったから」

「えっ、そんなことできるんですか?」

この人すごいなと思っていると、「違う違う、騙されちゃいけないよ」となっちが入ってきた。

「嘘に決まってるじゃん。親友のあたしから見たら、失敗したときの顔でしかないよ」

なっちの言葉に、「それは言っちゃいけないでしょ」と静子さんが返す。

「では、この練り香水は……?」

「セブンの言う通りよ。失敗作ね」

上手くいったと思ったんだけどなあ、と自身の作った香水を嗅ぐ静子さんに、

失敗作とわかっていながら持って来られても困るけどね、となっちが返す。