三月が終わりに近づいてから、大翔の学生生活が再開されるまでは非常に早く感じた。

四月が始まってからおよそ一週間が経った今日から、大翔の学生生活が始まる。

入学式が始まるまで余裕のある朝、わたしは大翔とともに公園のベンチにいた。

白いシャツに濃紺のスーツ、水色のネクタイという出で立ちの大翔は、かなり大人びて見えた。

しかし、ベンチに座ったら汚れないかというわたしの言葉に、

指でベンチの一部をなぞっただけで平気でしょうと返し座ってしまった辺りにはよく知る相原大翔を感じられた。


「親御さんは?」

「ううん。仕事あるし、来られてもどんなふうにいたらいいかわかんないし」

「そうか。まだ時間は掛かりそうだね」

「うん……。でも、今兄とは仲悪くはないよ。『まさかお前が僕より優れていたとはね』ってさ。こっちは二浪もしてるから、兄の方が断然優秀なんだけどね」

「そんなことないよ。受験生であった当時のお兄さんはあそこにしか行けなかったんだから」

言いながら、自分の声に反発心を感じた。

「ところで、お兄さんって……大翔に胃痛デビューさせた人だよね?」

大翔は恥ずかしそうに笑い、「忘れてってば」と言った。

「で、美紗の方は? ご家族と」

「こっちは全然。親とも兄とも口利かない。今も、部屋に来たら枕投げると思う」

大翔は楽しそうに笑い、「枕投げてたの?」と言う。

「五年前のわたしによる全力の威嚇」

「ただこうして聞くと美紗かわいいなって思っちゃうけど、実際に自分の娘がそれじゃ大変だろうね」

「ちょっと大翔、なにちゃっかりうちのモンスターたちの方についちゃってるわけ?」

「ごめんごめん、そうじゃなくて」

大翔の苦笑を合図にしたように、わたしたちを心地よい沈黙が包んだ。