涙に逢うまでさようなら

刺繍の練習を再開し、絆創膏のガーゼ部分に針を刺しかけたとき、大翔が緑茶を飲んだ。

「専門学校、どう?」

聞こえた声に振り向くと、大翔はノートの端になにかを囲うように丸を書いた。

「それなりに楽しいよ。幸せな土日のために授業は遅れ厳禁だけど」

前を向きながら答えた。

本の内容を確認し、線を作っていく。

「友達もできたんだ。この間、ちょっと暑いくらいだったじゃん。『なんでいつも長袖のパーカー着てるの?』って訊かれて。

『パーカーが好きだから』って答えたら、『長袖じゃ暑くない?』って言われちゃった。それを機に話すことが多くなって、今じゃ友達っぽくなってる」

長く話すと、大翔は「そうなんだ」と笑顔が見えるような声で言った。

「その人ね、声がすっごい綺麗なの。声質は少し低くてこもってる感じで、話し方は囁くような感じ」

「美紗が静かに喋る感じ?」

「褒められてるのか貶されてるのかよくわかんないけど、わたしの声は通らない?」

「特別褒めたつもりも貶したつもりもないかな。美紗の声は……どうなんだろうね? 通る方なのかな」

「だとわたしは思ってるけど」

でね、とわたしは続けた。

「その人、髪の毛が長くて、前髪だけ上げてるっていう髪型なんだけど、前髪で顔の半分近く隠してるわたしから見たらそんな髪型できるの君だけだよって感じで」

「声から容姿まで綺麗系か……」

「そうなの。顔も、和風美人って言葉がぴったりで。女相手だけど、和服姿を見てみたいと思っちゃうくらい」

「美紗がそれほど褒めるってよっぽどだね」

大翔の声に手が止まり、わたしは再び振り向いた。

「わたし、人を褒めないように見える?」

「いや、そう言うと聞こえ悪いけどさ」

大翔は苦笑しながら言った。

「ただ、どれだけ周囲の人に慕われてるような人相手でも、すぐに裏の顔とか見抜いちゃいそう」

俺は美紗のそんな雰囲気、嫌いじゃないよと大翔は続けた。

「隙を見せたら――というか、見せなくてもだめな感じ。なにかをはらんだ言葉を並べれば、すぐにその言葉に隠したものを見抜かれる」

「わたしってそんな怖い感じ? 別に、他人の言葉の真意になんて興味はないよ」

「かっこいいなあ……」

こちとら自分が周りにどう見えてるかしか気にならないのに、と大翔は続けた。

そんな人間がよくもまあわたしと同じような道を歩んでいたなと思う。