涙に逢うまでさようなら

漫画の登場人物との楽しい時間から覚めると、わたしは部屋着に黒いパーカーを羽織り、

これからの自分に必要なものを入れたトートバッグを持って家を出た。

トートバッグには、大翔の漫画が入ったビニール袋も入っている。


大翔の部屋へきてからは、自分との闘いだった。

高認の勉強を始めた直後の頃に借りた折りたたみのミニテーブルを借り、刺繍糸でミサンガを編んでいる。

手芸が趣味である女性が綴るブログの文章を基に手を動かすが、糸を操っているという感覚よりも糸に操られている感覚の方が圧倒的に強い。

小学校高学年で身につけた三つ編みの延長線上の技だろうと思い四つ編みに手を出したが、糸が一本増えただけで手間が何倍にもなっている。

作り方は十二分に理解しているのだが、手がその通りに動かないのだ。

三つ編みに比べ四つ編みは仕上がりが綺麗だとブログの著者は語っているが、わたしにやらせたら三つ編みの方が断然綺麗な仕上がりとなる。


「緑を青の上から、白の下を通す……。上行って下行くのか。緑、波瀾万丈な道だな」

わたしがぼそぼそと呟くと、大翔が小さく噴き出した。

「笑うな」と瞬時に返すと、「すみません」と静かに返ってきた。

静寂が帰ってきた部屋に、大翔が筆記用具を走らせる音が響く。