「ところで、美紗はこんなところでなにしてるの?」
「あれほど長い間一緒にいてわからないかね? 使い果たしたのだよ、いろいろと」
「勉強は進んだ?」
「まあ、それなりに。簿記は入門から上級までやった」
「すごいなあ……」
大翔は思わず口にしてしまったというように言うと、流れるようにして浅く座った。
「俺なんかさ、あれから全然進んでないの。美紗がいないと捗らないっていうか」
「わたしが君になにをしてやった?」
「前に言ったじゃないか。美紗がそばにいると落ち着くんだよ」
わたしが「ひたすらに変わった人間だな」と返すと、大翔はなにかを思い出したように「そうだ」と声を出し、今までの深さに座り直した。
わたしが昨日着ていたのと色違いであるパーカーのポケットから小さな袋を取り出す。
「これあげる」と差し出されたそれに、「要らない」と瞬時に返す。
大翔は「そう言わずにさ」と笑顔を作る。
「なにこれ?」
「なんだと思う?」
「わからないから訊いたんだけど」
未だ袋を差し出し続ける大翔の手からそれを受け取り、「見ていい?」と問う。
「もちろん」という彼の声を聞く前に開封し、中を覗いた。
「で、なにこれ?」
「なんだと思う?」
「……紐? なにを結えと?」
大翔は小さく笑ったあと、「ミサンガだよ」と言った。
「名前くらい聞いたことあるでしょ?」
「ふうん……。相手が美紗ちゃんなだけにミサンガあげるってか」
大翔の、上がっている口角とは反対に光を忘れている目を睨む。
彼はごめんなさいと呟いた。
ちょっと笑えなかったと失礼な言葉を続ける。
袋の中身をつまみ上げ、「こっちは要らない」と袋を返す。
ミサンガは、黒い紐と金色のチェーンで作られていた。
アジャスターの先には、華やかな形の大文字のエムがついていた。色はチェーンと同じ金色だ。
「あれほど長い間一緒にいてわからないかね? 使い果たしたのだよ、いろいろと」
「勉強は進んだ?」
「まあ、それなりに。簿記は入門から上級までやった」
「すごいなあ……」
大翔は思わず口にしてしまったというように言うと、流れるようにして浅く座った。
「俺なんかさ、あれから全然進んでないの。美紗がいないと捗らないっていうか」
「わたしが君になにをしてやった?」
「前に言ったじゃないか。美紗がそばにいると落ち着くんだよ」
わたしが「ひたすらに変わった人間だな」と返すと、大翔はなにかを思い出したように「そうだ」と声を出し、今までの深さに座り直した。
わたしが昨日着ていたのと色違いであるパーカーのポケットから小さな袋を取り出す。
「これあげる」と差し出されたそれに、「要らない」と瞬時に返す。
大翔は「そう言わずにさ」と笑顔を作る。
「なにこれ?」
「なんだと思う?」
「わからないから訊いたんだけど」
未だ袋を差し出し続ける大翔の手からそれを受け取り、「見ていい?」と問う。
「もちろん」という彼の声を聞く前に開封し、中を覗いた。
「で、なにこれ?」
「なんだと思う?」
「……紐? なにを結えと?」
大翔は小さく笑ったあと、「ミサンガだよ」と言った。
「名前くらい聞いたことあるでしょ?」
「ふうん……。相手が美紗ちゃんなだけにミサンガあげるってか」
大翔の、上がっている口角とは反対に光を忘れている目を睨む。
彼はごめんなさいと呟いた。
ちょっと笑えなかったと失礼な言葉を続ける。
袋の中身をつまみ上げ、「こっちは要らない」と袋を返す。
ミサンガは、黒い紐と金色のチェーンで作られていた。
アジャスターの先には、華やかな形の大文字のエムがついていた。色はチェーンと同じ金色だ。