涙に逢うまでさようなら

一文を書くのに要する時間は、日に日に増えた。

最低でも一日で一ページは黒くしていたのが、気づけば一日で半ページ黒くなればかなり書いた方となっていた。


清涼菓子の消費も増えた。

一日に一箱は必ず空けるようになった。


勉強が憂鬱に感じるようになって唯一上達しているのが、ノートの隅に描く人間の絵だった。

今日はノートの右下に、子犬に囲まれながら子猫を抱き上げる少年を描いた。

元は子猫を抱き上げる少年を描いたのだが、無意識にも近い状態で彼の周りに子犬を描いた。

ため息をつくと、「大丈夫? 今日何度目?」と大翔の声が飛んできた。

顔を上げると、彼は手を止め、こちらを見ていた。

わたしはさらにため息をつき、腕を枕のようにした。

「美紗、もういいんじゃない? 美紗はもともと高認なんて受けたくなかったわけだし、高認を受けないでやっていく方法も考えられる。だから、俺と違って高認を受ける必要はないんじゃないかな」

「もちろんそうしたいけど、結局どれもわたしには向いてない気がする」

「気がするだけだよ」

「なにもしないで生きる方法があればいいのにね」

言いながら、何もしないで生きる、と薄くノートに書いた。

「なにもしないで、か……」

「ないでしょ? あるならとっくにそうしてる」

「美紗が思いつかないんじゃ、誰も思いつかないね」

「そのわたしに対する過大評価はどうにかしな。社会に出て心臓止まるぞ。わたしより頭の柔らかい人間も、視野の広い人間もごまんといる」

吐き捨てるように言うと、わたしは清涼菓子を口に放った。