涙に逢うまでさようなら

トイレへくると、わたしは手洗い台の水を出した。

パーカーを脱ぎ腰に巻くと、ひたすら出てくる水を両手に溜め、そこに顔をうずめるようにした。

それを何度か繰り返し、最後には口をゆすいだ。

手洗い台に両手をついて顔を上げると、鏡には濡れた自分の顔が映った。

白い半袖ティーシャツの腰に黒いパーカーを巻くという姿で手洗い台に両手をつき、

肩をゆっくりと上下させるその自分は、いつも以上に魅力のないものだった。

鏡に映る自分の姿さえどう捉えたらいいものかわからなくなりかけると、右斜め後ろの扉が開けられた。

眼鏡をかけた、四十代くらいに見える小綺麗な女性が入ってくる。

鏡とレンズ越しに重なった視線はこちらから逸らした。

わたしが軽く手を洗うと、女性はその間に個室に入った。


はあと息を吐き、水を止める。

腰に巻いたままのパーカーのポケットから取り出したハンカチで顔と手を拭くと、ハンカチを唇で挟むようにし、下腹部の結び目を解いた。