涙に逢うまでさようなら

「どうしたの。知らぬ間にタイムスリップしてきた人みたいになってたよ? いや、そんな人を本当に見たわけじゃないけど」

知らぬ間にタイムスリップ――。

先ほど感じていたのは実際、そのような感覚である。

自分がいる場所も、目に入るものも人も、わからなくなるのだ。

前に座る男が自分の友人であるということは理解しているのだが、それがどうも不思議に感じられるのだ。

自分がこの場所に存在することも不思議に感じられる。


「美紗こそちょっと休んだら? 疲れでも溜まってるんじゃない?」

「いや、大丈夫だよ。ちょっとぼうっとしただけだから」

「ぼうっとすること自体そうそうあることじゃなくない? 美紗が休むなら、俺も休むし」

「大翔、休みたいの?」

「別にそういうわけじゃないよ」

大翔はいまいち感情の読み取れない声で返すと、「ただ、疲労やストレスを溜めるなと言ったのは美紗だからね?」と続けた。

わたしは「トイレ行ってくる」と残し、席を立った。