涙に逢うまでさようなら

「ねえ大翔」

シャーペンを走らせながら言うと、「ん?」と返ってきた。

「図書館にきたとき、なんでわたしだってわかったの?」

沈黙が流れ、「赤いパーカーなんてわたし最近着てないじゃん」と加える。

大翔は納得したのか「ああ」と声を出し、「なんとなくっていうのが一番近いかな」と答えた。

「髪型がちょっと気になってね。どこかで見たことのある髪型だと思って。それで近づいてみたら美紗だった」

「そうか」

「どうしてそんなことを?」

「いや……」

わたしは手を止め、ノートの間にシャーペンを置いた。

「なんか、悪かったなって」

「そんなことないよ」

「それにしても大翔、よくもまああの汗だくの女に触れようと思ったよね」

「だって、苦しそうだったから」

わたしふっと笑った。

「いいやつだな」

「そんなことないよ。美紗じゃなかったら放っておいたし」

「それは絶対嘘だ」

瞬時に返すと、大翔はへへへと笑い、止めていた手を動かした。

わたしは彼が買ってくれたスポーツドリンクの蓋を開け、「いただきます」と言って一口飲んだ。


改めて、自分はいい人間に出逢ったと思った。

あのとき、死にそうとまではいかなくとも実際苦しかったせいもあるのかもしれない。

それでも、今のわたしにとって大翔が大きな存在であり、非常に優しい人間であることに変わりはない。