涙に逢うまでさようなら

「美紗ってさ」

ふと、大翔が言った。

「どうした?」

「お兄さんとはどんな関係なの?」

シャーペンを動かす手が止まった。

「兄との関係、か……」

難しい質問だった。

なにせここ数か月兄の顔さえ忘れかけていたほどだ。

話さないどころか会うこともない。


「いいのか悪いのかもわからないな。話さないどころか、顔を合わせることもないからね」

「そっか……。好き?」

「ではないね。まあ殺したいほど嫌いとまではいかないけど、好きとはほど遠いかな。どうでもいいっていうのが一番近い気がする」

「そっか……。大変だね」

わたしは小さく噴き出した。

顔を上げると、軽く俯く大翔が現れた。

「大変なのは大翔もそうでしょ? 胃痛デビューするほどのストレスを与えられて」

大翔は肩をすくめ、苦笑した。

「あれは……ちょっと忘れてほしいかな。恥ずかしい……」

言いながら、大翔は頬を赤らめた。

「忘れてほしい、か……。難しいことを言うね、そこそこ心配させておきながら」

「心配してくれたの?」

言葉とともに上げられた顔には、なぜか明るい表情が作られついた。

「なんで嬉しそうなんだ」

シャーペンを握り直して間もなく、それもそうかと思った。

「まあそうか。わたしたちくらいになってくると、心配なんてしてくれんのはお互いしかいないからね」

「そうなんだよ……。切ないものだ」

「切ないですか……」

教科書に視線を戻し、「わたしにはない感情だ」と続けると、「羨ましいよ」と返ってきた。

それほど感情豊かなのもこちらとしては羨ましいのだが、これも言葉には出さなかった。