就寝から間もなく、部屋のドアが叩かれた。

時計の針は八時を示している。

ドアの前に母親がいるということはすぐにわかった。

学校に行かなくなってから少しして始まった日課のようなものだ。

舌打ちをして起き上がり、ベッドの上であぐらをかく。


「ねえ美紗。これからどうするの?」

母親の声に、再び舌打ちをする。

「昨日の夜も、さっきも、先生から連絡があった。『美紗さんの様子はいかがですか?』って」

母親の声を聞きながら、わたしは中指の爪を噛んだ。

「わたし、なんて答えたらいい? もうわかんない。毎日毎日同じことを訊かれて、毎日毎日同じようなことを答えてる。

『あまり調子はよくないようです』って。会わないあなたのことなんてわからないのに」

爪が噛み切れた。

歯を独特な痛みが襲う。

会わないあなたのことなんてわからない――。

誰のせいだ、と思った。

お前から壁を作り始めたのだろうと言いたかった。

学校に行かなくなってからも、わたしは起床後、必ずリビングに行っていた。

しかし日に日に母親の態度は冷たくなっていった。

そのためにわたしは部屋にいるようになったのだ。