涙に逢うまでさようなら

呼吸を整えながら、誰だか知らないが来ないでくれと願っていると、その声は「美紗?」と続けた。

顔を前に向けると、ぼんやりする視界に大翔の姿を見つけた。

「どうしたの、大丈夫?」と慌てた様子でこちらへ駆け寄ってくる。

目の前にしゃがみ、わたしを抱きしめるようにすると、彼は「大丈夫大丈夫」と繰り返しながら背中をさすった。

目立つからやめてくれと思いながらも、おとなしく大翔の手に呼吸を合わせる。

彼が上手いのかただ時間が経っただけなのか、呼吸はすぐに落ち着いた。

大翔は「おつかれ、頑張ったね」と言うと、わたしからゆっくりと離れた。

介抱したとき、わたしが彼に言った言葉だった。

暑苦しい中爽やかにも見えるような大翔の笑顔に、「あんたなにしてんの?」と返す。

ゆっくりと立ち上がり、尻を払う。

大翔もわたしに合わせるように立ち上がった。


「いやだって、美紗が死にそうだったから」

なにがあったのという問いに別になにもないと返す。

それに、と続けた。

「別に死にそうではなかったし」

「嘘だね。ばっくばくいってんの伝わってきたもん」

わたしはトートバッグで大翔の背中を叩いた。

彼は小さく声を漏らすと、「角はよくないよ」と悲しげに言った。

「そっちが気持ちの悪いことを言うからでしょ?」

「それで、なにがあったのさ。ストレスや疲労は溜めるなと言ってたのは美紗の方だよ?」

わたしの叩いた背中に手を当てながら言う大翔に、「ただ走ってきただけ」と返す。